「正義などという高尚な言葉を、軽々しく口にするな」

「あたしに指図するの?」

「あぁ、そうだ」

「ふーん。で、これは何?」

「誓約書だ」

「誓約書?」

「今後、二度と正義を口にしないと誓約しろ」

「そんなの無理よ」

「無理なことではない。それにこの誓約は貴様のためでもあるんだ」

「無理無理むりむりかたつむり!」

「黙れ」

「でも、そんなの関係ねぇ!」

「関係ある時もあるんだよ!」

「ぐすん…」

「人間、誰しも間違える時はある」

「あ、あたしは何も悪いことしてないもん!」

「貴様の気持ちはよくわかる」

「じゃあ、どうして!?」

「今の世界で正義の旗を振りかざすのは、死を望むのと同義なんだ」

「そんなの腐ってる…」

「あぁ、だがゲンジツとはそういうものだ」

「現実…」

「“ゲンジツ”だ。“現実”ではない。虚構が幾重にも積み重なって生じた“ゲンジツ”だ」

「そんなゲンジツで飾られた世界なら、早くあじゃぱーしちゃえばいいのに」

「私も昔はそう思っていた」

「いつ!?何時何分!?地球が何回回った時!?」

「……とにかく、若い頃は貴様と同じような考えだった」

「でも、今は違うの?」

「そうだ」

「貴方は、こんなゲンジツの世界に何も違和感を覚えないの!?」

「違和感はある。だが、それを貴様のように正面から表現していたのでは身が滅ぶのだ」

「じゃあ、貴方はずっとこのまま、何も表現しないのがいいっていうの!?」

「否。その問に関しては、断じて否と答える」

「意味わかんない!」

「落ち着いて話を聞け」

「ごめんなさい…」

「…確かに、虚構のゲンジツが世界を支配しているのは事実だ」

「うん」

「だが、彼は違う」

「彼…?」

「彼は、その筆でゲンジツに隠された現実を、AZAYAKAに、そして、写実的に描く」

「現実を…写実的に…」

「そうだ。言葉ではなく、色彩で現実を取り戻そうとしている」

「す、すごい…(ごくり」

「だから貴様も、真っ向から衝突せずに、うまくやれ。ほら、ガムやるから」

「…うん。ありがと」

「ミント味だ」

「清清しい味がして、美味しい」

「目が覚めるだろ?」

「うん」

「………」

「………ねぇ」

「ん?」

「あたし、ラクガキとか好きよ?」

「…それならば、貴様も色彩で現実を描け」

「あたしにも、できるよね?」

「可能。その問に関しては、断じて可能と答える」